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別居夫婦の監護権争いにおいて、原審の判断を抗告審で覆し、依頼人の監護が適切と認めさせた事例

2021.07.29

弁護士 中村 誠志

【事案の概要】

 本件は、婚姻関係が悪化した夫婦間での子の監護者がどちらですべきかが争われた事案です。婚姻関係の悪化に伴い、離婚についての協議を当事者間で行っておりましたが、親権について、協議が合意に至らず、当事者間での協議が継続していた中、父親である相手方が突然未成年者を連れて別居を開始し、当職が母親を代理し、子の監護者指定及び引き渡し請求を申立てた事案です。

【本件の争点及び背景】

 子の監護者を判断するにあたり多くの考慮要素が存在しますが、とりわけ同居中における主たる監護者及び別居後の監護状況、監護補助者等の状況を踏まえた今後の監護体制を踏まえて判断されることになります。
 その中でも、本件は同居中における主たる監護者について母親であると認定された一方で、現在の相手方である父親による監護状況にも問題はないとの判断がなされました。かかる前提の下、いずれが監護者として指定されるべきかが争われた事案です。
 原審においては、相手方である父親の監護状況に問題がないこと及び今後の監護についても万全な体制が図られることが考えられると結論付けた上で、相手方である父親が監護者としてふさわしいとの判断に至りました。

【裁判所(高等裁判所)の判断】

 本件において、高等裁判所は、主たる監護者について従前の生活におけるタイムスケジュールなどを基に確認し、原審では詳細な言及のなかった別居の経緯についても再度の確認があり(本件については、離婚の協議が親権の帰趨での争いが存在したこと及び主たる監護者である母親側から無断で父親が連れ去っている事実についての認定がありました)、これについて、高等裁判所は否定的な評価を下しております。また、将来の監護状況についても、従前の監護の状況、現在の双方の就労状況、監護補助者の存在も踏まえると、より充実した監護を行えるのは抗告人の母親であるとの判断を下しました。特に本件では、監護する必要がある未成年者の人数が多かったのですが、それらの監護について、原審は抽象的かつ表面的にその人数を踏まえて今後の母親による監護は支障を来す可能性があると判断しましたが、高等裁判所は、従前の監護状況が問題なかったこと及び相手方である父親の就労が不規則でその対応に苦慮していた点も十分に考慮要素に組み込んだ上で、将来における監護についても抗告人である母親の監護がより適切であるとの判断に至りました。

【当職の所見】

 本件は、原審の判断を抗告審で、当方有利な判断に覆した事案になります。抗告審で判断が覆る事件は、相対的に多いものではありません。本件でも当てはまりますが、抗告審が独自に再度の調査官による調査などが行われる可能性は、高いとはいえません。したがって、原審の段階で判断要素となりうる事実について、特に調査官の調査報告書の段階で顕出させておく必要性が高いものと考えております。とりわけ、従前の監護状況について具体化した説明をいわゆる「子の監護に関する陳述書」だけでなく、本人から調査官に説明することが必要になります。その中で、特に主たる監護者であったとの認定を得ることが必要になろうかと思います。本件は、この点について原審の段階で顕出できた点は大きかったように考えております。
 また、争点となりうる別居の経緯について、関係各所から聞き取った上でそれを証拠化できた点も大きかったように感じております(結果的に、原審はそれほど重きを置いた考慮をしておりませんでしたが、抗告審は重視した判断となっております)。
 以上のように、同種の事案類型では、一般に言われている判断基準を下に判断されることにはなりますが、判断における考慮の度合いについては、裁判体によっては大きな違いがあるように感じております。その為、前述のように抗告審で調査官調査が行われる可能性が高くない現状を踏まえると、原審の調査官調査での面談が抗告審での結果に重大な影響が及びうると実感しております。

この記事の執筆者

弁護士 中村 誠志

弁護士 中村 誠志

弁護士法人グレイス家事部所属。離婚・不倫・相続・遺言等の家事分野を主に担当。粘り強い交渉で依頼人の利益を実現することを目指し、交渉・裁判手続に日々取り組んでいます。加えて、家事分野のクライアントの特性上、争いを終わらせて新たな人生をいち早くスタートさせることも重視しています。家事事件のほか、企業法務・一般民事・刑事事件にも積極的に取り組んでいます。

解雇無効を主張された労働審判をゼロ和解にて決着させた事例

2021.04.27

弁護士 大武英司

【事案の概要】

 依頼会社が従業員を懲戒解雇したところ、解雇無効による地位確認と遡及賃金を求める労働審判を申し立てられました。
 本件は、従業員の大多数を女性が占める依頼会社に対し、数少ない男性従業員の1人が解雇無効を主張してきたものでした。依頼会社としては、女性従業員の多くからこの男性従業員によるセクハラ被害の申告を受けていたことから、最終的処分として懲戒解雇を選択したものでした。

【事案の推移】

 労働審判期日において、依頼会社は断固として戦うつもりであり、解決金名目であっても一切の金員を支払うつもりはありませんでした。そのような期待を受けて当事務所が代理人として出頭しましたが、セクハラ被害の立証等も奏功して、依頼会社の希望どおり一切の金員を支払うことのない内容で調停が成立しました。
 本件は解雇の手続きとして果たして必要十分な履践がなされたか否かは争いのあるところでしたが、セクハラ被害が相当数存在しており、その被害に関する膨大な陳述書を期日において提出いたしました。
 労働審判は調停が成立せず、審判となった場合、その審判内容に異議を申し立てれば通常訴訟に移行します。多くの女性従業員から得られた陳述書はその1つ1つが仮に証拠力の小さいものであったとしても、数が増えると共通の事実関係が浮き彫りになるうえ、万一通常訴訟に移行した際にはその従業員の多くは証人として出頭することも辞さない覚悟であることを相手方に伝えたところ、それがゼロ和解に繋がるきっかけとなりました。

【弁護士の所感】

 本件のように、懲戒解雇は労働審判や労働訴訟に発展するリスクを常にはらんでおり、使用者側は相当額の賃金を支払う対応を迫られることが非常に多いです。更に、労働審判のうちに解決をみることができればともかく、労働訴訟に発展すると、賃金を基礎とした請求金額に対して加算される遅延損害金や付加金が予想以上に膨れ上がる危険性もあり、その対応は非常に重要となります。
 そのようなリスクも考慮に入れつつ、それでも使用者側として毅然と相手方に対峙しなければならない点が、労働案件における難しさでもあり興味深さでもあります。
 本件においても解雇無効になるリスクは決して低いものではありませんでしたが、審判から通常訴訟に移行した場合に出頭が予定される被害女性従業員が多数存在したという事情が審判で決着させる最大の要因となった事案でした。
 労働紛争に発展するような場合において、懲戒解雇が有効であるという結論になることはなかなかないのですが、本件は一切の金銭出捐を伴わない解決となり、事実上、懲戒解雇無効の主張を完全に退けることができた点が非常に有意義でした。

この記事の執筆者

弁護士 大武 英司

弁護士 大武 英司

愛知県出身。塾講師、法律事務所勤務を経て、司法試験に合格して弁護士登録。中小企業の企業法務一般を一貫して取り扱ってきました。労務問題や就業規則、交渉・訴訟など幅広く対応します。当事務所主催のセミナーでは講師を務め、企業法務に関する知識や最新情報を皆様へお届けしています。

ホテル事業の民事再生手続を行って自主再建させた事例

弁護士 大武英司

【事案の概要】

 ホテル業を経営しているA法人は、金融機関からの借入に対する月々の返済に追われ、非常に厳しいキャッシュフローに悩まされていました。A法人はもともとレンタカー業も営んでいたものの不採算部門であったことから同事業を譲渡し経営のスリム化を図りました。しかしながら、キャッシュフローを好転させるまでには至りませんでした。
 A法人の代表者は、ホテル業の経営から離れることを望んでおらず、自らの経営権を維持しつつ会社を再建させたいとの思いが強くありました。そこで、当事務所にご相談に来られましたが、その時点でキャッシュは非常に逼迫した状況にありました。
 なお、A法人の財産としては、ホテルの土地・建物ぐらいであり、他にめぼしい財産はありませんでした。

【方針の決定経緯】

 A法人の代表者の経営権を維持するためには、株式譲渡を伴う手続きによることはできず、私的整理によるか、自力再建型の民事再生手続による方法が考えられました。もっとも、借入先である金融機関が多数に及んでいたこと、金融機関からの借入が多かったものの負債総額に対するその割合は半分ほどであり、残りの半分が一般債権者であったことから、民事再生手続によって債務を圧縮しなければ、キャッシュフローの改善はとても見込める状況にありませんでした。
 もっとも、手元資金が枯渇している状況下では民事再生手続の遂行は困難を極めます。そこで、代表者が有しているA法人の株式を担保に供したうえで、代表者の知人からキャッシュを借り入れることによるキャッシュの捻出を図りました。本来であれば、この借入は再生債権として処理されるところ、最終的にはこれを共益債権とすることの許可を裁判所から得てキャッシュを捻出することができました。

【事案の推移】

本件では金融機関との交渉、水道局(市町村)との交渉が特に難航を極めました。
A社の所有するホテルには目一杯に担保が設定されており、金融機関は担保権実行も辞さない意向を当初より有しておりました。しかしながら、再生計画を策定するにあたっては、別除権協定を締結することが必要であり、金融機関の協力は必要不可欠でした。
そのため、粘り強く交渉をしておりましたが、そんな矢先に、今度は水道局から水道料金の長期未納を理由とする滞納処分でホテルの建物そのものが差し押さえられるという事態となりました。民事再生手続は事業継続を前提とする手続ですが、この滞納処分を無視すれば、ホテルへの水道供給も停止されかねない状況でした。
 そこで、金融機関と別除権協定を締結する方針を思い切って変更し、水道局に対する支払いだけ行ったうえで速やかに差押解除を求め、ホテルそのものを売却することとしました。すなわち、A社は売却先から建物を賃借することで事業継続を図る途を探ることにしました。
 この方針は、あくまでA社がホテルとして賃借することを認める売却先を見つけなければ成り立たないものでしたが、無事そのような条件を満たす売却先を見つけることができました。当初より別除権協定に反対していた金融機関からも、この方針変更については理解を示されるに至り、建物(ホテル)の売却代金をもって金融機関に一部弁済することとしました。
 結果として、A社が提出した再生計画案は、95%を優に超える債権者の賛成を得た上で、無事認可決定を得ることができました。
 現在は、資金繰りが順調に推移しているだけでなく、キャッシュの借入先に担保提供していた株式も取り戻すことができ、経営権を維持したままの事業継続が可能となりました。

【弁護士の所感】

 法人の民事再生手続・会社更生手続を行った経験のある弁護士は比較的少ないのではないでしょうか。当事務所ではホテルの民事再生手続を受任し、無事再生計画の認可決定を得ることができました。
 法人の民事再生手続は事業の継続を前提とする手続ゆえに、そのポイントは、一にも二にも資金繰りの検討です。また、公租公課債権者や別除権者との交渉、スポンサーの選定・獲得等も手続成功にとって重要な要素になります。
 本件は、依頼会社の代表者が自らの経営権を保持したまま自主再建をしたいとの強い希望を持たれていたことから、スポンサーを前提としない自主再建型の民事再生手続を申請しました。しかしながら、手続当初からキャッシュが乏しく、前途多難でした。更には、ホテルそのものが公租公課の滞納処分を受けることになり、その解除をめぐる交渉や、事業継続のための協力を求める交渉に日々奔走いたしました。
 結果的には、資金繰りが底をつきるリスクを回避し、無事再生計画の認可決定を得たことにより、債務が大幅に圧縮され、再建を図ることができました。

この記事の執筆者

弁護士 大武 英司

弁護士 大武 英司

愛知県出身。塾講師、法律事務所勤務を経て、司法試験に合格して弁護士登録。中小企業の企業法務一般を一貫して取り扱ってきました。労務問題や就業規則、交渉・訴訟など幅広く対応します。当事務所主催のセミナーでは講師を務め、企業法務に関する知識や最新情報を皆様へお届けしています。

違法捜査を理由に各種証拠の証拠能力が否定され、無罪を言い渡された事例

2021.04.19

弁護士 茂木佑介

【事案の概要】

  本件は、被告人が、駐車場敷地内に駐車中の軽トラック(以下「本件軽トラック」といいます。)の無施錠の運転席ドアを開け、同車助手席においてあった発泡酒1箱(以下「本件被害品」といいます。)を窃取した事件です。
  被告人は、一貫して窃盗行ったことを認めていましたが、本件には以下の問題点が認められました。

【本件の問題点】

 本件軽トラックと本件被害品はいずれも警察官が準備したものでした(以下「本件捜査」といいます。)。
 そのため、本件捜査がいわゆる「おとり捜査」、または「おとり捜査」に準ずる捜査に該当するのではないかという問題がありました。

【本件の背景】

 従前より、近隣で同種の車上荒らし事例が報告されておりました。そして、所轄の警察署がこれらの車上荒らしの捜査を進めていたところ、深夜に近隣を徘徊していた被告人が疑わしい人物として浮上していました。
そのような背景がある中で、同警察署は、本件軽トラックを借り受け、本件被害品を本件軽トラック内に配置していました。

【おとり捜査に関する最高裁判例(最一小決平成16年7月12日・刑集58巻5号333頁)の考察】

おとり捜査は、「捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙する」捜査手法であり、①「直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において」、②「通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に」、③「機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象に」行われる場合に限り「刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容される」とされています。
 この点、①「直接の被害者がいない薬物犯罪等」は、一般に、密行的に行われ、捜査の端緒がつかみにくいという意味で、おとり捜査の「必要性」を根拠づける事情であると同時に、この種の犯罪については国家がそれを惹起したとしても個人に被害を生ぜしめるおそれがないという意味で、その「相当性」を根拠づける事情です。他方、②「通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合」とは、おとり捜査の補充性に関する判示として理解されています(宇藤崇・松田岳斗・堀江慎司・刑事訴訟法167頁参照)。そうであるとすれば、①「直接の被害者がいない薬物犯罪等」以外の被害者がいる犯罪においては、そもそもおとり捜査の「必要性」や「相当性」が限りなく低く、本来、おとり捜査は認められるべきではありません。
仮におとり捜査が認められる場合があるとしても、②「通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である」か否かは、①「直接の被害者がいない薬物犯罪等」に比して厳格に判断されるべきものであり、③「機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象」としている場合であったとしても、捜査の困難性を理由に安易におとり捜査を許容すべきではありません。
 そして、おとり捜査の実質的な問題性が、ⓐ国家が犯罪を創り出し、被害またはその危険を発生させること、または、ⓑ捜査の公正さを侵害することに求められる点に鑑みれば、前述の①乃至③に関する事情のみならず、ⓐ及びⓑの観点も併せた総合的観点から、おとり捜査の許否について検討すべきものです。

【裁判所の判断】

 裁判所は、従前の捜査の経過や、当日の捜査経過及び現行犯逮捕に至る一切の事実を踏まえ、当該警察官らは、本件当日、被告人を車上狙いの現行犯で検挙する目的のもの、本件軽トラックを無人勝無施錠の状態で駐車し、その助手席上に本件被害品が放置された状況を作出した上で、被告人がこれに対して車上狙いの実行に出るのを待ち設けていたものと推認することができると判断しました。
 その上で、このように「捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、捜査対象者が自己等に対する犯罪を実行しやすい状況を秘密裏に作出した上で、同対象者がこれに対して犯罪の実行にでたところで現行犯逮捕等により検挙する捜査手法」を「なりすまし捜査」と定義しました。
 おとり捜査となりすまし捜査は、おとり捜査が相手方に対する犯罪実行の働き掛けを要素とするのに対し、なりすまし捜査ではそのような働きかけが要素となっていませんが、裁判所は、「これらの両捜査手法は、本来犯罪を抑止すべき立場にある国家が犯罪を誘発しているとの側面があり、その捜査活動により捜査の構成が害される本質的な性格は共通している」ものとして、おとり捜査に関する前掲判例の要件に沿って本件捜査の違法性を検討し、結果として本件捜査は違法である旨判断しました。
 その結果、本件において提出された各証拠が、いわゆる違法収集証拠排除法則に沿って証拠能力が認められませんでした。
 本件では、被告の自白こそありましたが、それを補強すべき証拠がない為、刑事訴訟法319条2項によって被告人を有罪とすることはできず、被告人は無罪であると判断されました。

この記事の執筆者

弁護士 茂木 佑介

弁護士 茂木 佑介

弁護士法人グレイス家事部部長弁護士。弁護士に対して離婚の実務を教える研修の講師に選ばれる程の実績と技術力を持つ、離婚問題のスペシャリスト。
1000件以上の離婚問題に対応した実績があり、依頼者からも連日、感謝のお手紙が届くほど、依頼者からの評価が高く、信頼も厚い。
特に依頼者のことを最優先に考え、できるだけ早期解決ができるよう協議での離婚問題を解決する技術に関する評価が高い。
信頼と実績に裏付けられたアドバイスは、専門家が参考にする程のレベルがあり、弁護士に対するアドバイス実績も多く、全国の弁護士が注目している弁護士の1人。

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