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別居夫婦の監護権争いにおいて、原審の判断を抗告審で覆し、依頼人の監護が適切と認めさせた事例

弁護士 中村 誠志

【事案の概要】

 本件は、婚姻関係が悪化した夫婦間での子の監護者がどちらですべきかが争われた事案です。婚姻関係の悪化に伴い、離婚についての協議を当事者間で行っておりましたが、親権について、協議が合意に至らず、当事者間での協議が継続していた中、父親である相手方が突然未成年者を連れて別居を開始し、当職が母親を代理し、子の監護者指定及び引き渡し請求を申立てた事案です。

【本件の争点及び背景】

 子の監護者を判断するにあたり多くの考慮要素が存在しますが、とりわけ同居中における主たる監護者及び別居後の監護状況、監護補助者等の状況を踏まえた今後の監護体制を踏まえて判断されることになります。
 その中でも、本件は同居中における主たる監護者について母親であると認定された一方で、現在の相手方である父親による監護状況にも問題はないとの判断がなされました。かかる前提の下、いずれが監護者として指定されるべきかが争われた事案です。
 原審においては、相手方である父親の監護状況に問題がないこと及び今後の監護についても万全な体制が図られることが考えられると結論付けた上で、相手方である父親が監護者としてふさわしいとの判断に至りました。

【裁判所(高等裁判所)の判断】

 本件において、高等裁判所は、主たる監護者について従前の生活におけるタイムスケジュールなどを基に確認し、原審では詳細な言及のなかった別居の経緯についても再度の確認があり(本件については、離婚の協議が親権の帰趨での争いが存在したこと及び主たる監護者である母親側から無断で父親が連れ去っている事実についての認定がありました)、これについて、高等裁判所は否定的な評価を下しております。また、将来の監護状況についても、従前の監護の状況、現在の双方の就労状況、監護補助者の存在も踏まえると、より充実した監護を行えるのは抗告人の母親であるとの判断を下しました。特に本件では、監護する必要がある未成年者の人数が多かったのですが、それらの監護について、原審は抽象的かつ表面的にその人数を踏まえて今後の母親による監護は支障を来す可能性があると判断しましたが、高等裁判所は、従前の監護状況が問題なかったこと及び相手方である父親の就労が不規則でその対応に苦慮していた点も十分に考慮要素に組み込んだ上で、将来における監護についても抗告人である母親の監護がより適切であるとの判断に至りました。

【当職の所見】

 本件は、原審の判断を抗告審で、当方有利な判断に覆した事案になります。抗告審で判断が覆る事件は、相対的に多いものではありません。本件でも当てはまりますが、抗告審が独自に再度の調査官による調査などが行われる可能性は、高いとはいえません。したがって、原審の段階で判断要素となりうる事実について、特に調査官の調査報告書の段階で顕出させておく必要性が高いものと考えております。とりわけ、従前の監護状況について具体化した説明をいわゆる「子の監護に関する陳述書」だけでなく、本人から調査官に説明することが必要になります。その中で、特に主たる監護者であったとの認定を得ることが必要になろうかと思います。本件は、この点について原審の段階で顕出できた点は大きかったように考えております。
 また、争点となりうる別居の経緯について、関係各所から聞き取った上でそれを証拠化できた点も大きかったように感じております(結果的に、原審はそれほど重きを置いた考慮をしておりませんでしたが、抗告審は重視した判断となっております)。
 以上のように、同種の事案類型では、一般に言われている判断基準を下に判断されることにはなりますが、判断における考慮の度合いについては、裁判体によっては大きな違いがあるように感じております。その為、前述のように抗告審で調査官調査が行われる可能性が高くない現状を踏まえると、原審の調査官調査での面談が抗告審での結果に重大な影響が及びうると実感しております。

この記事の執筆者

弁護士 中村 誠志

弁護士 中村 誠志

弁護士法人グレイス家事部所属。離婚・不倫・相続・遺言等の家事分野を主に担当。粘り強い交渉で依頼人の利益を実現することを目指し、交渉・裁判手続に日々取り組んでいます。加えて、家事分野のクライアントの特性上、争いを終わらせて新たな人生をいち早くスタートさせることも重視しています。家事事件のほか、企業法務・一般民事・刑事事件にも積極的に取り組んでいます。

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