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ホテル事業の民事再生手続を行って自主再建させた事例

弁護士 大武英司

【事案の概要】

 ホテル業を経営しているA法人は、金融機関からの借入に対する月々の返済に追われ、非常に厳しいキャッシュフローに悩まされていました。A法人はもともとレンタカー業も営んでいたものの不採算部門であったことから同事業を譲渡し経営のスリム化を図りました。しかしながら、キャッシュフローを好転させるまでには至りませんでした。
 A法人の代表者は、ホテル業の経営から離れることを望んでおらず、自らの経営権を維持しつつ会社を再建させたいとの思いが強くありました。そこで、当事務所にご相談に来られましたが、その時点でキャッシュは非常に逼迫した状況にありました。
 なお、A法人の財産としては、ホテルの土地・建物ぐらいであり、他にめぼしい財産はありませんでした。

【方針の決定経緯】

 A法人の代表者の経営権を維持するためには、株式譲渡を伴う手続きによることはできず、私的整理によるか、自力再建型の民事再生手続による方法が考えられました。もっとも、借入先である金融機関が多数に及んでいたこと、金融機関からの借入が多かったものの負債総額に対するその割合は半分ほどであり、残りの半分が一般債権者であったことから、民事再生手続によって債務を圧縮しなければ、キャッシュフローの改善はとても見込める状況にありませんでした。
 もっとも、手元資金が枯渇している状況下では民事再生手続の遂行は困難を極めます。そこで、代表者が有しているA法人の株式を担保に供したうえで、代表者の知人からキャッシュを借り入れることによるキャッシュの捻出を図りました。本来であれば、この借入は再生債権として処理されるところ、最終的にはこれを共益債権とすることの許可を裁判所から得てキャッシュを捻出することができました。

【事案の推移】

本件では金融機関との交渉、水道局(市町村)との交渉が特に難航を極めました。
A社の所有するホテルには目一杯に担保が設定されており、金融機関は担保権実行も辞さない意向を当初より有しておりました。しかしながら、再生計画を策定するにあたっては、別除権協定を締結することが必要であり、金融機関の協力は必要不可欠でした。
そのため、粘り強く交渉をしておりましたが、そんな矢先に、今度は水道局から水道料金の長期未納を理由とする滞納処分でホテルの建物そのものが差し押さえられるという事態となりました。民事再生手続は事業継続を前提とする手続ですが、この滞納処分を無視すれば、ホテルへの水道供給も停止されかねない状況でした。
 そこで、金融機関と別除権協定を締結する方針を思い切って変更し、水道局に対する支払いだけ行ったうえで速やかに差押解除を求め、ホテルそのものを売却することとしました。すなわち、A社は売却先から建物を賃借することで事業継続を図る途を探ることにしました。
 この方針は、あくまでA社がホテルとして賃借することを認める売却先を見つけなければ成り立たないものでしたが、無事そのような条件を満たす売却先を見つけることができました。当初より別除権協定に反対していた金融機関からも、この方針変更については理解を示されるに至り、建物(ホテル)の売却代金をもって金融機関に一部弁済することとしました。
 結果として、A社が提出した再生計画案は、95%を優に超える債権者の賛成を得た上で、無事認可決定を得ることができました。
 現在は、資金繰りが順調に推移しているだけでなく、キャッシュの借入先に担保提供していた株式も取り戻すことができ、経営権を維持したままの事業継続が可能となりました。

【弁護士の所感】

 法人の民事再生手続・会社更生手続を行った経験のある弁護士は比較的少ないのではないでしょうか。当事務所ではホテルの民事再生手続を受任し、無事再生計画の認可決定を得ることができました。
 法人の民事再生手続は事業の継続を前提とする手続ゆえに、そのポイントは、一にも二にも資金繰りの検討です。また、公租公課債権者や別除権者との交渉、スポンサーの選定・獲得等も手続成功にとって重要な要素になります。
 本件は、依頼会社の代表者が自らの経営権を保持したまま自主再建をしたいとの強い希望を持たれていたことから、スポンサーを前提としない自主再建型の民事再生手続を申請しました。しかしながら、手続当初からキャッシュが乏しく、前途多難でした。更には、ホテルそのものが公租公課の滞納処分を受けることになり、その解除をめぐる交渉や、事業継続のための協力を求める交渉に日々奔走いたしました。
 結果的には、資金繰りが底をつきるリスクを回避し、無事再生計画の認可決定を得たことにより、債務が大幅に圧縮され、再建を図ることができました。

この記事の執筆者

弁護士 大武 英司

弁護士 大武 英司

愛知県出身。塾講師、法律事務所勤務を経て、司法試験に合格して弁護士登録。中小企業の企業法務一般を一貫して取り扱ってきました。労務問題や就業規則、交渉・訴訟など幅広く対応します。当事務所主催のセミナーでは講師を務め、企業法務に関する知識や最新情報を皆様へお届けしています。

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